リフォーム前の残置物処理

リフォーム前に『キッチンの片づけと冷蔵庫の中身の処理』のみをお願いしたいとのことでしたが、 『家電すべての撤去とキッチンの解体まで』へ変更。 日を改めてお伺いし、対応させていただきました。

□作業場所:戸建 台所                                                      □作業内容:食品梱包搬出 冷蔵庫、電子レンジ、ガスレンジ処理 キッチン一式解体                □作業時間:6時間                                            □作業員:2名                                                      □作業料金:120,000円(税別)(諸経費込)(内装工事別)                             □費用負担:依頼者

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腐乱遺体+ゴミ部屋

                     

「旅行に行く」と言って休暇を取っていたはずの同僚が、予定日になっても出社しないため、様子を見に行くと・・・

旅行に行くことなく室内で亡くなっていました。

□死後:推定7日                                                □作業場所:1DKマンション2階(階段降ろし)                                                      □作業内容:特殊清掃 遺品整理 不要物分別梱包・搬出 消臭消毒 家電リサイクル 一部解体                                    □作業時間:延3週間                                            □作業員:延人数6名                                                      □作業料金:360,000円(税別)(諸経費込)(内装工事別)                             □費用負担:遺族

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隣人哀

「誠意をみせろ!誠意を!!」 男性は、私に向かって大声をあげた。 ことの発端はこう・・・ とあるアパートの一室で、高齢の住人男性がひっそりと孤独死。 放置された日数は少なくはなかったが、冬の寒冷の中で腐敗速度は低速。 遺体は、膨張溶解ではなく乾燥収縮。 異臭は発生してはいたものの、それは「腐乱死体臭」というより、高齢者宅にありがちの“尿臭”にちかいもの。 私からすれば“ライト級”・・・いや、“ストロー級”、ホッとできるくらいの現場だった。 故人の部屋は独立した角部屋。 アパートの構造上、隣室との間には、共用階段が挟まれていた。 つまり、壁一枚で隔てられた隣室はないということ。 しかも、室内の異臭は軽度で外部漏洩はなく、近隣に迷惑がかかっているというようなことはなし。 それは、不動産管理会社の担当者も現場に来て確認していた。 私は、調査からほどなくして作業に着手。 軽症の現場とはいえ、油断せず、近隣に対する配慮も怠らず、いつものように自分のセオリー通り組み立てた手順で作業を進めた。 遺体汚染は素人目にはわからないくらいのもので、尿臭も素人でも我慢できるくらいのもの。 床の残った体液は最初の30分で、室内にこもった尿臭も数日のうちに収束。 何も言われなければ、そこで人が亡くなったことはおろか、まだ、そこで人が生活していると言ってもいいくらいの部屋に戻った。 「隣の部屋の人が“クサい!”って言ってるんですけど・・・」 作業も終盤にさしかかった頃のある日の夕方、管理会社の担当者から電話が入った。 何日も前に特掃は終わらせ、消臭消毒作業も山場を越えて仕上げ段階にきてのこと。 「何かの間違いじゃないですか?」 まったく心当たりのない私は、首をかしげた。 現場を知っている担当者も、どうにも解せない様子だった。 しかし、臭覚は、個人的・主観的な感覚。 臭気の感じ方に、個人差があっても不自然ではない。 また、腐乱死体臭の場合、一度嗅いでしまうと精神にニオイがついてしまい、「鼻について離れない」と言われることも多い。 結局、「電話じゃラチが明かない」ということで、私は、急遽、現場へ出向くことに。 一日の仕事を終え帰り支度も終わった段階、暗くなってからの出動はとても面倒臭くはあったけど、付き合いの長い担当者は、いつも私の仕事ぶりを評価してくれ、何かとよくしてくれていた。 その恩義もあったので、私は、さっさと支度を整えて現場へ急行した。 現地に着いた頃、陽はとっくに暮れ、冷え冷えとした空気が暗がりを覆っていた。 まず、私は、現場の部屋の前へ。 周辺の空気を慎重に嗅いだが、当初から変わらず特に異臭は感じず。 ただ、常日頃から凄惨現場で苛めぬかれている鼻が、腐乱死体臭を“異臭”として感知しない可能性もある(そんなはずないけど)。 ミスがあってはいけないので、私は、念には念を入れて、外気と部屋の前の臭気を交互に嗅いだ。 結果、異臭を感知しなかった私は、「異臭なし」と判断。 「何かの勘違いだろう・・・」と、苦情を言ってきている隣室のドアをノック。 すると、中から初老の男性がでてきた。 「アンタが掃除の業者?」 初対面なのに、不愉快なタメ口。 「そうです・・・」 礼をわきまえない人間は嫌いなのだが、私は、敬語対応。 「クサくて部屋にいられないよぉ!どおしてくれんの?」 完全に上から目線で、何かをたかるような ねちっこい口調。 「特に変なニオイはしませんけど・・・」 まったく異臭を感じない私は、感じたことを率直に返答。 「何いってんだよ!こんだけ人に迷惑をかけといて、“臭わない”はねぇだろ!」 男性は不快感を露わに。 「この仕事、恥ずかしいくらい長くやってますから、ここに遺体のニオイがないことくらいわかりますよ」 こういうときに熱くなるのは禁物、私は冷静さを保つよう努めた。 「俺が“クサい!”って言ってんだからクサいんだよ!」 男性は、どこかの政治家みたいに論点をすり替えて、テンションを上げた。 「私が“クサくない!”って言ってるんだからクサくないんですよ!」 内心で苛立ちはじめていた私は、ギアを戦闘モードに切り換える準備をしながら男性の揚げ足をとった。 そんな平行線のやりとりを繰り返しているうちに、男性の怒りは頂点に。 「バカ野郎!」「掃除屋のクセに!」等と語気を強め、人差し指を頬にあてて「こっちの知り合いもいるんだからな!」と、化石級の脅し文句で威嚇してきた。 そして、そんなやりとりの中で、「誠意をみせろ!誠意を!!」と、大声をあげたのだった。 良識をもって作業を行うことはもちろん、近隣や他人に社会通念を逸するような迷惑をかけてはいけない。 しかし、根拠のない苦情や理不尽な行為は 到底 容認できるものではない。 そのうえ、私は、臆病者のくせに気は短い。 争いごとは好まないくせに、勝算のある揉め事は嫌わない。 また、弱虫のくせに口は達者で、屁理屈をこねるのも不得意ではない(“口が減らないヤツ”と褒めて?くれる人も多い)。 「金がとれる」等と、どこかの愚か者に入れ知恵でもされたのだろう・・・話の中で男性の魂胆が見えた私は“ニヤリ”。 「ちょっと不動産会社の担当者と相談しますから・・・」 と、男性の要求を検討する素振りをみせながら、一方、頭の中では形勢逆転を画策しながら、一旦、戦線を離脱した。 私は、ことの経緯を担当者へ報告。 どんな人間であれ不動産会社にとって入居者は客であるから、不愉快な気持ちを抑えて丁寧に対応してきた担当者だったが、事の真相が“金銭目的のゆすり”であろうことがわかると声色が変わった。 怒りを滲ませ、「何を言われても無視していい」とのこと。 更に、「反論していいですか?」の問いに、 「言いたいことがあるなら言い返してもいいですよ!」 「ただ、挑発にのって手を出したりしないように!」 「あと、念のため録音に気をつけて下さい」 と、男性に応戦することを認めてくれた。 本件の責任者である担当者の許可を得た私は、意気揚々かつ虎視眈眈と戦線に復帰。 再び男性と対峙し、先に口火を切った。 「ところで、“誠意”って何ですか? 具体的に言ってもらわないとわからないんですけど!」 「“誠意”ったら“誠意”だよ! ガキじゃないんだからそんなのすぐわかるだろ!」 「そう言われてもねぇ・・・」 「自分の頭で考えろ!」 「私、頭が悪いものでわからないんですよぉ・・・具体的に教えてくださいよ!」 「バカか!?オマエは!」 「そうなんでしょうねぇ~・・・全然わからないなぁ~・・・」 「ホント!頭にくるヤツだ!!」 男性が金銭を要求しているのは明らかだったので、私は、男性の口から「金」という一言を引き出そうとした。 しかし、自ら「金をよこせ」なんていうと詐欺・恐喝などの犯罪になりかねない。 あと、感情にまかせて暴力をふるっても同様。 男性はそこまでバカじゃなかったのではなく、同じようなことをやらかして懲らしめられた過去があったのだろう、その一言は口にしなかった。 また、拳をあげる素振りで威嚇してきたものの実際に殴りかかってくることもなかった。 男性はフルパワーで脅しているつもりだったのだろうけど、一方の私は、恐いどころか痛くも痒くもなし。 余裕の薄ら笑いを浮かべながら、“のらりくらり”と“おとぼけ”に徹した。 しかし、終わりの見えない口論は時間の無駄。 押し問答に飽きてきた私は、男性の弾が尽きそうな頃合いを見計らって、攻勢に転じた。 「○○(故人)さんが亡くなって発見されないでいる間はクサくなかったんですか!?」 「悪臭があったとしたら最初からのはずなのに、なんで、今頃になって言ってくるんですか!?」 「“クサい!クサい!”って、そもそも遺体のニオイを知ってるんですか!?」 「もともと△△(男性)さんちがクサいんじゃないですか!? その証拠に、アパートの他の人は誰も何も言ってきてないじゃないですか!」 「何をせしめたいのか、ハッキリ言ったらどうですか!?」 と、嫌味弾をたっぷり込めたマシンガンをブチかました。 更に、腹いせついでに、 「△△さんは、この先ずっと死なないんですか? その歳で、この先○○さんみたいにならない確証はあるんですか?」 「そもそも私が出したニオイじゃないんだから、私が文句を言われる筋合いはないですよ!」 「“一人きりで亡くなった○○さんが悪い”とでも言いたいのなら、どうぞ当人に言って下さい! 近くで、こっちを見てるかもしれませんから!」 「ただし、その後、何が起こっても私は知りませんけどね!!」 と、グーの手に立てた親指で故人の部屋をクイクイと指しながら、私は、意味のないことを ことさら意味ありげに言い放った。 「・・・そ、そんなの俺の知ったことか!」 男性は、まともに反論できず“蜂の巣”に。 子供のようにそう言い捨てると、スゴスゴと自室に退却。 まだ弾が残っていた私が“話はまだ終わってない!”とばかりにドアをノックしても反応せず、天敵を前にしたカタツムリのように、そのまま部屋に閉じこもってしまった。 そして、これに懲りたのだろう、その後も、私が故人の部屋に作業に入っても自室から出てくることはなかった。 そんなある日、私が隣室に立ち入る物音をききつけた男性が、久しぶりに自室から出てきた。 「新たなネタを仕入れたか? 今度はどんな因縁をつけてくる気だ?」と私は警戒。 しかし、何だか、それまでとは様子が違う。 前回同様に私を睨みつけてくるのかと思ったら、予想に反し、どことなく気マズそうな顔に不気味な愛想笑いを浮かべて近寄ってきた。 「ご苦労様・・・この前は申し訳なかった・・・お互い、なかったことにして水に流してよ」 何があったのか、男性は私に謝罪。 私は、それまでとは別人のような低姿勢に気持ち悪さを覚えたものの、謝られて無視するのは礼に反する。 「こちらこそ・・・あの時はちょっと言い過ぎたかもしれません・・・スイマセンでした・・・」 男性に対する不快感は拭いきれなかったが、私は男性の謝罪を受け入れ、自分の非礼も詫びた。 それにしても、男性が態度を豹変させたのは奇妙だった。 しかし、何があったのか・・・その理由はサッパリわからず。 管理会社が金品を渡したわけではないし、大家に叱られたわけでもなさそうだし、他の住人にたしなめられたわけでもなさそう。 「何が起こっても知らないぞ!!」といった、私の意味深な言葉が効いたのか・・・ とにかく、その訳はわからず仕舞いだった。 何はともあれ、表面上でも男性と和解できたことはよかった。 自分に非がないとしても、心にシコリが残ってしまい気分が悪い。 また、作業が無事に完了ことにもホッとした。 ともすれば、忍耐力の弱さがでてしまい、大ゲンカに発展して仕事どころではなくなったかもしれないから。 そうなったら、私の仕事を信頼してくれている担当者や その向こうにいるアパートオーナーを裏切ることにもなったし、更には他住人や故人にまで迷惑をかけてしまうことにもなりかねなかった。 後腐れなく一仕事を終えることができて、清々しい気分に包まれた私は、 「ひょっとして・・・○○(故人)さんが、ちょっと恐いイタズラでもしたのかな・・・・・Good job!」 と、青く澄んだ大空を仰ぎつつ、透明になった故人に微笑んだのだった。

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ゴミ部屋+孤立死

作業前
作業後

                      休み明けに出社してこないことに異変を感じた同僚が、故人の両親へ連絡。 金曜日の夜中に亡くなり、発見は月曜日の夕方。 室内はエアコンがかかっていたこともあり、腐敗を抑えることができていた。

□死後:推定3日                                                □作業場所:1DKアパート2階                                                      □作業内容:汚布団梱包 遺品整理 不要物分別梱包・搬出 簡易消臭消毒                □作業時間:延2日                                            □作業員:延人数3名                                                      □作業料金:148,000円(税別)(諸経費込)                             □費用負担:遺族

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見えない敵

流れるのは厳しいニュースばかりで、世の中の空気は重い。 目に見えるほどの明るい兆しもなく、暗雲はどこまでも垂れこめている。 そこへもってきて、私は、安酒で誤魔化せるほど能天気な性格ではなく、なかなか明るい気持ちになれないでいる。 そんな今月中旬のこと。 私は、仲間4人と、とある民家に向かった。 現場は一般的な木造二階一戸建、築年数は50年くらいか。 空き家になってから、そう時間が経っていなかったにも関わらず、家屋は著しく劣化。 室内もまた、結構な傷みが出ていた。 頼まれた仕事は家財撤去、依頼者は亡くなった住人の遺族。 「遺族」といっても、子や孫ではなく、ちょっと複雑で薄い関係。 家財や家屋はもちろん、故人にも特段の思い入れはないようで、非情にも見えるくらい冷淡。 他人に見せないようにしていても、“欲”というものは、なかなか抑えることができず、どことなく滲み出てしまうもの。 多分、それに突き動かされたのだろう、さっさと家を空にして土地を金に替えたいようだった。 単独でやる特掃にかぎらず、複数名で取りかかる一般現場でも、だいたい、作業難易度の高い部分や危険度の高いところ、特別な汚染や汚物があるようなところは私が担うことになる。 遺体系・腐敗食品系・液物系・害虫害獣系・糞尿系etc・・・ 社内ルールでもなく、作業マニュアルでもなく、私が志願するわけでもなく、暗黙の慣習として。 ず~っとそうだから、私も、抗うことなくそれに従っている。 この現場でいうと、当該部分は物置にあたる。 庭に建つ、今にも倒壊しそうな古ぼけた木造物置。 もう、何十年も放置されている感じで、いかにも不衛生。 皆が各々の作業場所に散るのに合わせて、私は、その物置へ。 建てつけのわるい戸をこじ開けると、ヒンヤリとした湿気と肺に悪そうなカビ臭がお出迎え。 薄暗い中、目を凝らしてみると、何もかもにホコリが厚く堆積し、モノクロに変色。 まるで、時代に取り残されたような景観。 加えて、見えないところに何が潜んでいてもおかしくなさそうな、不気味な雰囲気が漂っていた。 私は、ウジやハエはもちろん、ゴキブリやネズミも平気。 蜘蛛やトカゲもかわいいもの。 蜂やムカデも何とかなる。 ただ、蛇はイカン、蛇だけはダメ。 実物はもちろん、玩具のゴミ蛇も無理。 TVとかで、蛇の写真や映像がでてきても目をそむけるくらい。 子供の頃は平気だったのに、いつの頃からか超苦手に。 そんな具合だから、人の死痕でも悲鳴なんか上げないのに、紛らわしいところに紛らわしいかたちで置いてあるロープやホースに悲鳴を上げてしまうこともある。 ハブやマムシじゃなければ、そんなに怖がることもないのだろうけど、あの形状は生理的に受けつけないのだ。 何年か前、一人でアパート孤独死現場の特掃をやっていたとき、天井から蛇が降りてきたことがあった。 わずかな物音で気づいたのだが、天井からのびてくる長いヤツをみたときの私の狼狽ぶりには、上から見ていた(?)故人も、思わず笑っちゃったかもしれない。 あとは、とある御宅のタンスを動かしたら、その裏からデッカイ蛇がでてきてビックリ仰天!、悲鳴とともに飛び跳ねて逃げたこともあった。 また別の民家で、 “ネズミ避け”のつもりのようで、家のあちこち 庭のあちこちに何十匹ものゴム蛇が置いてあったこともあった。 玩具とはいえ、どこを向いても、どこに行っても蛇だらけ。 しかも、何かの陰に隠すように、見えないところに置いてあるものだから、いつも突然現れる。 その驚いたこと、その恐ろしかったこと、その不気味だったことといったら・・・もう泣きそうになった。 本件の物置にトカゲはいたけど、幸い、蛇はおらず。 近くに蜂も飛んでいたが、こちらがちょっかいを出さなければ問題ないので、特に気にならず。 しかし、そこには、目に見えない厄介なヤツが他にいた。 そう・・・そこにいたのは“ダニ”。 私は、そこに多くのダニが潜んでいるのを、身をもって知ることとなった。 作業を始めると、目が痒くなるくらい大量のホコリが舞った。 それは防ぎようがないので、我慢して作業を進行。 すると、ほどなくして、首元が痒くなってきた。 そして、その痒みは、どんどん強くなり、首元から脇、背中へと拡大。 しかし、別に“痛い!”わけじゃないから耐えられないものではなく、そんなことで作業を止めるわけにはいかない。 私は、ヒドくなるばかりの痒みと戦いながら、作業を続行した。 もっとも重症だったのはクビ周り。 ぐるりと360°赤いブツブツができ、これが痒いこと!痒いこと! しかし、掻くと余計にヒドくなるので、痒くても我慢! 仕事をしている昼間は気が紛れてそんなに気にならなかったけど、夜になると、感じる痒みは倍増! 特に、就寝中が強烈! もう、痒くて!痒くて!まったく我慢することができず。 ボリボリ ボリボリ、手が届くところは軒並み掻きまくってしまった。 手が届かない背中は、愛用の孫の手をつかってまで。 それが二~三日続き、その間はロクに眠ることができなかった。 私は、頭だけじゃなく身体もかなり固い。 自分の手で背中を掻くことができない。 で、“孫の手”を持っている。 昔ながらの木製のヤツではなく、金属製でアンテナのように伸縮する最新式(?)のヤツ。 よくある木製のモノは先端(指先部分)が丸みをおびていて肌への当たりがソフト。 掻き心地は弱くて、痒みがとれるどころか、逆に歯痒い思いをしてしまう。 一方、私が持っている金属製のモノは先端(指先部分)が鋭利で肌への当たりがハード。 それを痒いところに押し当てて、ガリガリ!と痛いくらいに擦りつける。 すると、その強い掻き具合により、バツグン!の爽快感が得られ、これが相当に気持ちいいのである。 ちなみに、私は、耳カキもハード派・・・「スーパーハード派」といってもいいくらい。 中学の頃からそう。 しかし、耳鼻科医は、「耳掃除は綿棒でソフトにするべき」「耳垢は全部とってはいけない」と警告。 しかし、これは、「雑巾だけで特掃をやれ」って言っているようなもの(じゃない?)。 綿棒で撫でるだけなんて、そんな赤ん坊みたいなことやってられない。 固く鋭利な耳カキ棒で、ガリガリ!やらないと満足できない。 私は、それを、一日に一度とかではなく、二~三度、多いときは五~六度もやる。 となると、それなりの備えが必要(大袈裟な言い方だけど)。 で、いつでもどこでも耳カキができるよう、耳カキ棒は身の回りの至るところ置いてある。 自宅にも何本か持ってるし、会社のデスクにも、車にも積んである。 たまにしか使わない、カバンやリュックにも。 掻きたくなったらすぐに掻けないとストレスになるから、いつでもどこでも掻けるようにしてある。 26とか27くらいのときだったか、運転中の耳カキで右耳の鼓膜を破ったことがあって、今でも難聴と耳鳴りが残っているのに、まったく懲りていないのだ。 ダニの話に戻る。 あれから二週間余が経ち、今、症状はほとんど治まっている。 ブツブツはかなり小さくなり、残っている痒みもわずか。 本来なら、蕁麻疹がでてときみたいに、すぐ病院に行けばよかったのかもしれないけど、もともと私は病院嫌い。 その上、コロナにも注意しなければならず、皮膚科とはいえ不要不急で病院に行くと色んなところに迷惑がかかってしまう恐れもあった。 で、結局、病院には行かず、自然治癒に任せて今日に至っている。 特効薬もワクチンもない今、この新型コロナウイルスも自然治癒を待つのが治療法の主流だそう。 根本的には、人がもつ免疫力や治癒力が頼り。 必死に行われている治療を批判するつもりもなければ、懸命に動かされている医療を軽視しているわけでもないけど、その根幹は原始的。 ということは、日常生活において免疫力を下げないよう気をつけ、免疫力を高めるよう努めることが大切だろう。 感染しないよう充分な対策を実行し、また、“自分が保菌者かもしれない”という危機感を持ち、その上で、人に感染させないよう細心の注意をはらうことと同じくらいに。 問題は、身体のこと以外にもある。 そう・・・、生活の問題・・・お金の問題・・・経済の問題。 リーマンショックのときは、我々のような零細末端の珍業種には、ほとんど影響がなかった。 東日本大震災のときは仕事が激減したが、二カ月を過ぎた頃から徐々に復調してきた。 で、今回のコロナ災難は・・・ これは、それよりも、はるかに大きな影響がでる可能性をはらんでいる。 そして、終わりの見えないこの未知数が、不安感・悲愴感を増大させている。 そんな中、コロナ対策支援金として、政府が一人10万円くれるという。 はじめの30万円のときは、自分が対象外になることは容易に想像できたので何の興味も覚えなかったけど、今回の10万円は私ももらえるようなので関心がある。 ただ、その政策・・・いわゆる“金のバラマキ”には賛成できない。 「安直」というか「安易」というか、そういった浅慮感が否めない。 確かに、今の今、現金がなくて困っている人は多いのかもしれない。 「今をしのぐことで精一杯、その先のことなか考えられない」という人もいるかも。 そういう私だって、お金は必要、お金はほしい。 しかし、世帯差・個人差はあれど、これで延びる“生活寿命”は約一ヶ月。 たった一ヶ月延びるだけ、たったの一ヶ月・・・一ヶ月なんてすぐ過ぎる。 一ヶ月経って、支給金を使い果たして、スッカラカンになって、その後、どう生きればいいのか・・・一ヶ月先に待っているのは、今と同じ苦境なのである。 国も、“焼け石に水”であることは分かってながら、“目先の急務”としてやらざるを得ないということか。 他に妙案があるわけでもないから「愚策」とまでは言えないけど、布マスク二枚も同様、政治家の人達は、本来、頭がいいはずなのだから、もうちょっとマシな政策が打てないものかと、首を傾げてしまう。 もちろん(?)、政策に同調できないからといって、私は、受給を辞退するつもりはない。 「受給を辞退しても10万円は国庫に溶けるだけで何の役にも立たない(byどこかの市長)」といった啓けた見識もなければ、金銭欲を押しのけてまで貫けるほどの信念も持っていない。 ただ、「お金がほしい」「お金が必要」というだけのこと。 結局のところ、誰も最後まで助けてくれないし、自己責任・自助努力・・・個々で何とかするしかないのだから。 ・・・と、評論家気取りで私見を述べてはいるものの、ことの是非を判断するのは一個人(私)ではなく社会、成否を見極めるのは一個人(私)ではなく未来、そして、評価を下すのは一個人(私)ではなく歴史。 ただ、この大きな難局において、今は、批判は口(文字)だけにして、国や自治体の方針に従うべきところは従い、協力すべきところは協力すべき。 同時に、痒いところに手が届く孫の手のような策を練りながら、蛇のようにしなやかに 苦難と苦悩の隙間をすり抜けながら、粘り強く生きるしかない。 敵は、新型コロナウイルスだけではない。 そこから派生したツラい出来事・・・怒り、悲しみ、苦しみ、恐怖、不安、絶望感が渦巻く現実も然り。 しかし、この苦境は、これまで我々が目もくれなかったことに目を向けさせ、多くのことを学ばせ、たくさんの知恵を得させてくれるのかもしれない。 人格を練り、品性を磨き、自分を鍛えるチャンスを与えてくれるのかもしれない。 そして今、“ぜいたくウイルス”“わがままウイルス”“傲慢ウイルス”“怠惰ウイルス”“冷淡ウイルス”etc・・・ それぞれ自分が感染している“見えない敵”を私達に気づかせ、その病を治す免疫を与えてくれるのかもしれないのである。

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