亡くなる直前もラーメン、35年前に姿を消した父の「迷惑な」最期

いま日本は「孤独死大国」になろうとしている。国立社会保障・人口問題研究所の調査で、生涯未婚率が過去最高を更新したとメディア各社が報じた。生涯未婚率は50歳時点で未婚である人の割合を示す。その後、結婚をすることになる人もいるが、まだ少数派。また、配偶者や子どもがいても、「おひとりさま」になることもあるだろう。つまり、誰にとっても「おひとりさま」は他人事ではないのだ。

そこで、懸念されているのが、家で亡くなって死後何日も遺体が発見されないという「孤独死」というデッドエンドだ。民間のシンクタンクであるニッセイ基礎研究所の調査によると、孤独死の数は年間3万人。

そんな悲劇が実際に身内に生じたらどうなるのか。父親の孤独死に直面した会社員の徳山和也さん(仮名・55歳)の生々しい経験をもとに、“縁なき社会”の現状を追った。(ノンフィクション・ライター 菅野久美子)

●アル中、借金、35年会っていない父親

「突然、警察から電話があってオヤジが孤独死していたことを知ったんですよ。土曜の朝の8時半くらいに電話がきて『お父さんが亡くなったんです』と。しかも、電話口の相手は捜査1課だと言うんです。殺人事件を手掛ける部署ですよね。とにかくびっくりしましたね」

寒さの残っていたその日のことを、徳山さんはそう語り始めた。

私と徳山さんとは、彼が依頼した千葉県の遺品整理業者を通じて知り合った。遺族への孤独死の取材というと、一般的な反応としてあからさまに嫌な顔をされ拒否されることが多い。孤独死という結末が、通常ならば他人には触れられたくない家族関係の根幹に関わる部分であるからだ。それは、取材者である私でも、痛いほどよくわかる。

しかし、徳山さんは「孤独死の現状を知ってもらえるなら」と、二つ返事で取材を快諾してくれたのだ。

「たまたま仕事も休みで、趣味のウォーキングか温泉でも行こうかなんて思っていたところに、そんな電話。そのまま父親が住んでいたという千葉県内の警察署に遺体の引き取りに行くことになりました」

徳山さんの父親はかつては大手自動車メーカーに勤務し、製造ラインで自動車の部品を作っていた。しかし、あるときからアルコールに入り浸るようになり、複数の飲み屋などにツケを抱え、消費者金融に足繁く通い借金を作るようになる。しまいには住宅ローンの返済も滞るようになった。

一家の家計は火の車となり、両親は33年前に離婚。当然ながら、徳山さん自身、父親に関する良い思い出は全くない。さらに以後ずっと音信不通だったため、こういってはなんだが、他人同然だという。

そのため、降って湧いたような突然の父親の訃報に徳山さんは困惑した。母親はとうに離婚しているので、実子で長男である徳山さんに警察から連絡がいったのだが、その事態を理解するまでに、少し時間がかかったのは言うまでもない。母親も父親の死を後ほど知らされたが、あからさまに関わりたくなさそうな態度だった。

「だって、今まで散々家族に迷惑をかけてるんですよ。オヤジに対して、心情的には恨みつらみだけしかないんですよ。全く良いイメージがないですからね。だからできるだけ関わりたくなかったんです。どこかで借金しているかもわからないしね」

●焦げ付いた鍋の中にはラーメンが…

徳山さんのようなケースは決して珍しい話ではない。通常孤独死が発覚すると、警察は徹底的に身内の連絡先を調べ上げ、実子だけでなく、甥や姪までもいとも簡単に突き止め、遺体の引き渡しを求めて連絡をしてくる。縁遠い甥や姪にしてみれば寝耳に水であろう。

徳山さんは、父親の遺体の引き取りを承諾し警察に赴いたが、ずっと疎遠な状態が続いていれば、親類による遺体の引き取り拒否も少なくないという。

徳山さんの父親が暮らしていたというアパートに、遺体が発見されて数日後という状況にも関わらず、お邪魔させてもらえることになった。

築30年は下らないと思われる古びたアパートは、日当たりが悪く、室内は寒々しかった。部屋はガランとしていて、モノは少なく、キッチンのガス台には、鍋にラーメンがそのままの状態で置き去りにしてあった。

それが父親の身に起こった出来事を伝えていた。

鍋の中のラーメンは、黒く焦げ付いている。台所の冷蔵庫を見ると、中は空っぽ。父親は、まるで、玄関の方に助けを求めるようにして、突っ伏していたのだという。ガスの火は安全装置が起動して、しばらくして自動停止したのだろう。

その日も、いつも通りインスタントラーメンを作ろうとしたが、突発的な異変に見舞われ、そのまま倒れてしまったということが、現場の状態から一目でわかった。

晩年は年金生活だったようだが、最後まで飲み歩く生活はやめられずに、困窮した末、毎食ラーメンという不摂生な生活を送っていたことが浮かび上がってくる。遺品整理の際に、押し入れから出てきたのは、段ボールいっぱいの袋入りのあのインスタント麺だった。

「このキッチンの床に、オヤジは目を見開いた状態で、仰向けで倒れていたみたいです。ほんと、毎日ラーメンだけの生活だったんだなぁ…」

ため息をつくように、徳山さんはポツリとそうこぼした。その荒れた食生活からは、ごみ屋敷に代表されるような「セルフ・ネグレクト(自己放任)」に陥っていたと推測される。セルフ・ネグレクトは、孤独死の8割を占めると言われており、近年深刻な社会問題となっているのだ。

●孤独死のコスト

たまたま真冬の時期に死後1日で発見されたため、かろうじて遺体の腐敗は進行していなかったのが、せめてもの救いに思われた。これが真夏となると、また状況は違ってくる。何日も遺体が発見されず、床下まで体液が染み込むなどすると、清掃費用が跳ね上がり、ゆうに100万円を超えることもあるからだ。

そして、こうした費用の負担を巡って、遺族と大家がトラブルになるケースも近年頻発している。さらに悪質なのが、後払いであるのをいいことに、親族が費用を払わずに、そのまま逃げるケースだという。

徳山さんは、知り合いの葬儀社の提案で、火葬から納骨までを一括で依頼できるコースを選択した。父親の骨が火葬場から最後にどこにいったのかは知らないし、特に知りたくもないと思っている。

「オヤジが死んでホッとしたというのが正直な心境です。こんな面倒くさい死後のゴタゴタが全部、お金で解決できるなら、それでいいですよ」

これらの費用を捻出する理由は、亡くなったのが曲がりなりにも実の父だったこと。それに尽きるのが徳山さんの偽らざる心境だ。しかし、これが現在の孤独死の遺族を取り巻く現実である。

●35年ぶりに会った父、死の精算は「60万円」

大阪の特殊清掃業者によると、孤独死のほとんどが、こうした離婚後の男性だという。この業者は、孤独死の清掃で一度も遺族が悲しむ姿を見たことがないと断言していた。

徳山さんは言葉を続ける。

「昔のオヤジの勤め先の人に、オヤジが亡くなったって伝えたんです。警察の名刺を見せて『警察の世話になっちゃったよ』ってね。そしたら、『最後までほんとにあいつは世話を掛けるなあ』と言われたんです。自分でも、そう思いますよ。せめて、少しでもお金を残して置いてくれれば良かったのに思いますね」

徳山さんの口からは最後まで、死者を悼む言葉は聞くことはなかった。しかし、これまでの経緯を踏まえると、それも致し方ない気がする。

葬儀社へ支払った埋葬代込みの費用が10万8000円、斎場代(棺桶台と、冷蔵庫2日分込み)が1万9744円。家財道具処分費用が28万円、死体検案書3万5000円。その他にも、父親が滞納したクレジットカード代、アパートのハウスクリーニング費用など、徳山さんは諸々総計すると、60万円近くを支払った。

これが、世間ではあまり知られていない孤独死のコストだ――。そして、それが跳ね返ってくるのは、まぎれもなく血縁関係にある家族である。しかも実子がいない場合は、会ったこともない甥や姪にくることもある。

「死は生の鏡」と教えてくれたのは、孤独死対策で先陣を切っている常盤平団地(千葉県松戸市)の中沢卓実会長だ。いわば“発見されない死”とは、生前築いてきた社会における関係性の「薄さ」の反映といえるだろう。それが先鋭化したのが孤独死という結末に他ならないのだ。

弁護士ドットコムニュース

 

松戸、孤独死急増218人 昨年40歳以上、男性が7割 千葉

松戸市は、昨年1年間に自室内で誰にもみとられずに死亡した、市内の40歳以上の孤独死は218人で、一昨年より40人増加したと発表した。40歳以上の統計を取り始めた平成23年は133人で、27年に178人になり、昨年急増した。

218人の内訳は男性が151人と7割近くを占め、女性は67人。年齢別では40代27人▽50代28人▽60代44人▽70代55人▽80代55人▽90歳以上8人、不明1人-となっている。男性は60代の38人、女性は80代の27人が最多だった。

13年春、市内常盤平団地で、死後3年たった男性=死亡当時(69)=の白骨遺体が見つかり、市が15年から孤独死の統計をまとめるようになった。

当初は孤独死は高齢者の問題とされていたことから50代以上の孤独死統計だったが、中年層にも少なくないことが分かり、23年からは40代を加えた。孤独死の調査・公表は全国自治体でも極めて珍しいという。

常盤平団地の中沢卓実自治会長(83)は「孤独死をなくす努力が追いついていない。30代以下の若年層についても気になる。多くが男性で、地域社会との関わりが薄い男性への対策が急務だ」と話す。市は新年度から料理教室やサークル活動への男性の参加を図り、孤独死の原因とされる地域社会での孤立の防止を進める。

産経新聞 3/4(土)

「ごみ屋敷」が全焼=男性遺体、住人か―福島

11日午後11時20分ごろ、福島県郡山市菜根の民家が燃えていると近所の住民から119番があった。

県警郡山署などによると、木造平屋建てが全焼し、焼け跡から男性の遺体が発見された。

同署は、住人の無職平野昭太郎さん(74)とみて身元の特定を急ぐとともに、出火原因を調べている。

郡山市によると、平野さん方は大量のごみがたまり、悪臭や害虫などが発生していると苦情が出ていた。市は3月、火災の恐れがあるなどとして行政代執行で敷地内のごみを撤去したが、家屋内は所有権の関係で代執行できなかった。

時事通信 10月12日(水)


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過労死白書に遺族コラム 家族の会代表「感無量」

「私たちがやってきたことが、このような形で記載されたのは大変感無量。昔から比べると考えもしないところまで発展した」。全国過労死を考える家族の会代表、寺西笑子(えみこ)さん(67)=京都市伏見区=は、初めて作成された過労死等防止対策白書の完成をこう喜んだ。

平成8年2月、飲食チェーン店勤務の夫、彰さん=当時(48)=が厳しいノルマや配置転換など過労の末に自殺。まさか命まで絶つとは思わず、「妻として何もできなかった」と悔やんだ。労災認定と民事訴訟を通じ、当時の社長から謝罪の言葉を勝ち取るまで11年もかかったという。

寺西さんは白書に2つのコラムを寄せた。

《過労死の認定基準はなかったことから泣き寝入りが多く、遺族にとって厳しい時代だった。それでもあきらめず、涙を怒りに変えて、道なき道を切り開いた》

コラムでは、家族会の活動をこう総括しながら、今も全国各地を渡り歩き、大学や高校で労働者の命や働くルールの大切さを教える活動を紹介した。

いまだに課題は山積している。過労死は一向に減らない。これまでは中高年が主流だったが、近年は若年層に広がり、幼い子供が取り残される例が増えてきた。家族会は同じ苦しみを抱える遺児を集め交流会も開いている。

「悲惨な思いをする遺族をこれ以上つくってはならない。これからも社会に警鐘を鳴らしていく」。寺西さんはそう心を新たにしている。

産経新聞  10月7日(金)

「何かあったときは家を売ればいい」説 だが現実甘くない

「一生に1度の買い物」と必死の思いで買ったマンション。だが30年後に思わぬ価格差がついてしまうことがある。立地やどの鉄道の沿線か、周辺施設などで大きな差が生まれるのだ。

買ったマンションの評価額が激減している場合、どうしたらいいのか。鍵を握るのは「管理」だと『マンション格差』の著者で、住宅ジャーナリストの榊淳司氏はいう。

「適切なマンションの修繕が行なわれていれば評価額が上がることもある。管理会社が杓子定規に『13年に1度』の修繕をしている場合は危険です。必要に応じて修繕をしているかどうかが重要で、それを決定する管理組合が健全に機能しているかがポイントとなります。そうしたマンションの市場価値は高くなるケースが多い。また管理組合を通じてコンサルに委託して管理状況を改善するのも手かもしれない」

それでもマンションの評価額が下がってしまうと、「売るも地獄、住むも地獄」となってしまう。

老後の資金を得るために、マンションを抵当に入れることで、住み続けながらその評価額を毎月分割して受けとる『リバースモーゲージ』という方法があるが、ファイナンシャル・プランナーの八ツ井慶子氏は、“地獄のマンション”ではそれも難しいという。

「老後資金が少ない人に提案する手段なのですが、評価額が購入時よりも減れば、当然融資額もそれに応じて減額されてしまう。評価額が一定以下だと、審査が通らないこともあります。

住み続けても、引き継ぐ人がいなければ維持費や固定資産税ばかりがかさむ“負の財産”になりえます」

看取りサポート事業を行なっているチャプター・ツー代表の三村麻子氏はいう。

「『自宅を売却して施設に入りたい』という人は多いですが、思っていたような値段で売れないケースがほとんど。妻に先立たれ、認知症になったのちにマンションの値が下がり、売れないゴミ屋敷で亡くなった方もいました。『何かあったときに家を売ればいい』と思っている人は少なくないですが、元気なうちに、親身になってくれる不動産屋さんをみつけて相談すべきでしょう」

マンションの処遇で死に方まで変わってしまうのだ。

週刊ポスト2016年10月7日


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